無題

昨日の仕事帰り、22時くらいだっただろうか。
車で通っているので駐車場まで暗い夜道をとぼとぼ歩いていた。
さすがに夜も更けてきているので人なんて大通り周辺にポツポツと、
疲れを絵に描いたような表情の仕事帰り風な人を見かけるくらい。
一つ路地へ入れば街灯の明かりが最低限の光を提供してくれているのみ。
もうすぐ駐車場というところで、
前方から自転車に乗った人が走ってきた。すごくゆっくり。
野球帽を深めに被り、タイヤの小さな折りたたみ自転車に乗っている。
特に気にとめる事もなく、携帯でハイクを眺めながらすれ違った。
たまたま、少し前まで会社の人と歩いていたので音楽は聴いていなかった。
左耳が通り過ぎる自転車の音を捉え、徐々に遠ざかるのを認識した。
と思った矢先、遠ざかったはずの音が徐々に音量を上げてきた。
ふと、軽く左側を確認すると、
すぐ後ろを、こちらを見ながらゆっくりと通り過ぎていった。
あまりに突然のことでビックリしたと同時に、背筋が凍った。
幸い、目の前に自分の車というところまで来ており、
慌てるでもなく、でもできるだけすばやく車に逃げ込んだ。
思わずルームミラーで背後を確認する。
どうやらそのまま通り過ぎていった模様。
心臓に直接耳をあてているような音量でドクンドクンと聴こえる。
ひとまず落ち着いてエンジンをかけ、もう一度後ろを確認する、と、
後ろ右側にある家の影から先ほどの自転車がゆっくりと現れた。
まさかと思うより早く、明らかにこちらにハンドルをきって進んでくる。
本当に怖くなって急いでアクセルを踏んで飛び出した。

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#昨日の実話